水晶振動子・水晶発振器・水晶フィルタ・VCXO・TCXO・OCXO・QCM・プラズマ加工

Vol.2 技術情報

水晶発振回路の回路マッチングとは①

量産基板での発振トラブルを回避するために

 水晶振動子を使って発振回路を組むときのリスク回避の手段として、 回路マッチングの重要性が認識されるようになってきました。
量産時には水晶振動子のもついろいろなパラメータ(仕様項目)について、規格の範囲内でばらつきがあります。 また、発振回路そのもの、つまり使用するIC、コンデンサや抵抗にもばらつきがあります。
水晶/回路素子の双方にばらつきがあっても、事前に起動不良や発振停止などのリスク要因となる項目を 一つ一つ測定データに基づいて検証し、リスク要因を最少化できるように回路のCやRの値、 必要ならば水晶振動子の仕様項目である負荷容量やESRの値の変更を提案することを回路マッチングと言います。

なぜ回路マッチングが必要なのか

● 発振のための条件が不十分だとトラブルが起こる可能性あり
水晶振動子は受動部品ですから、ICの外側に発振回路を組んで、 そこに水晶振動子を搭載することでICから電力(パワー)を供給されることで発振しています。
しかし、搭載される水晶振動子がその本来の機能を発揮して適正な周波数で発振を開始し、 発振し続けるためには、ICや発振回路のコンデンサ、抵抗などとベストの条件関係が必要です。
ベストの発振条件が充たされていない、あるいは不十分な場合は、 搭載された水晶振動子が規格内であっても量産の後に起動不良や発振停止というトラブルが発生することがあります。

● 各部品のばらつきを考慮に入れた回路マッチングが必要
水晶振動子も規格内でばらつきがあり、ICや回路のC、Rにもばらつきがあります。
そのようなばらつきがあっても、回路上での発振条件に起因する発振トラブルを最少化するために回路マッチングが必要です。

● 小型水晶には目に見えないリスクがある
そのうえ、さらに最近では水晶デバイスもますます小さくなってきており、 ユーザが基板設計するときは小さい部品を使えば機器も小さくできるので小型化のメリットがあるかもしれませんが、 水晶の小型化には実は目に見えないリスクがあります。
大きい水晶でもリスクはありますが、小さいとリスクは高まるのです。
小型とは、おおむね3.2×2.5mm以下のサイズです。

● ESR は発振阻害要因
回路設計をする開発技術者はあまり意識していないかもしれませんが、 水晶振動子の仕様項目でESRという項目があります。
これはEquivalent Series Resistance(等価直列抵抗)で、 簡単に言うと水晶のもっている抵抗成分で、発振に対しては阻害要因です。
このESR値は小さいほど発振には有利ですが、 水晶振動子のパッケージ・サイズが小さくなるほどこの値が大きくなるのです。
図1を参照してください。
このグラフが示しているのは、大型の水晶はESRのばらつきのセンタが低い値であり、 ばらつきの幅も小さいということです。
中型になればセンタ値が上がりばらつきも大きくなります。
小型の水晶の場合はセンタ値がかなり大きくなり、ばらつきの幅もかなり広がるということです。

図1

● 同じ30MHz基本波でもパッケージによって規格が違う
例えば30MHzの基本波振動子を例にとると、水晶振動子のESR規格値は表1のようになっています(九州電通の場合)。
同じ30MHzでも発振阻害要因としてのESRの規格値は、このようにパッケージ・サイズが小さくなるほど大きくなっています。
どの水晶メーカのデータを比べてみても同じような傾向になっています。
このように、ESR規格値がパッケージ・サイズによって違うということへの認識が重要です。

表1

● 回路マッチングをしないまま小さいパッケージに変更してトラブルになった事例
トラブルの実例としてMET(7.5×5mm)の30MHzを搭載していた基板を改版して、 BIT(2.0×1.6mm)の30 MHz振動子を単純に載せ換えて、試作では問題なかったのでそのまま量産に入り、 発振トラブルになったユーザがありました。
これは、小型の水晶振動子はESRが大きくなるので発振には不利な状況となることに気づいていなかったことにも原因があり、 回路マッチングを行ってBIT(2.0×1.6mm)のESRの規格が100Ω maxであるということを計算に入れて回路定数などを検討し、 回路設計を行っていれば防げたトラブルだったと思われます。
大きい水晶でも発振リスクはありますが、水晶が小さくなればなるほどリスクが高くなるという認識を前提に、 水晶メーカに回路マッチングを依頼するということが発振リスク回避には重要です。

● ICメーカは搭載される水晶のサイズまでわからない
ICのマニュアルに単純に30MHzを使うよう指示があり、小型水晶で試作して指示どおりの回路定数のC、R部品を搭載して、 試作品の評価が良かったからそのまま量産に入ってトラブルになるということも起こり得ます。
ICメーカも水晶メーカから試作用水晶の提供を受けて実験し、 回路定数などをデータシートに記載しているのかもしれません。 しかし、IC メーカではユーザが実際に搭載する水晶のサイズまでは認識していません。
ただ単純に部品を集めて搭載し、試作品を評価してOKだから量産へというようなディジタル思考では、 やはり量産でトラブルを起こすリスクが高くなります。

● 発振回路はアナログ回路、微調整が必要
近ごろは大手のセット・メーカでも、回路の設計などを下請けや外部に出してしまうところが多いようです。
基本的なリスク要因がわからないままに外部に任せきりにして、その受託者も水晶のリスク、 特に小型化のリスクなどに意を払わないで試作品を評価して問題がなかったからすぐに量産へ、 ということがあるかもしれませんが、それはとても危険です。
特に現代はディジタル回路やCPU、DSPが花形で、アナログ回路なんて古いという技術者が多いとも聞きます。
水晶を使った発振回路は、まさにアナログの典型です。
回路の部品を微調整することによって、アナログ回路のもつリスクを最少限にする、そのために回路マッチングを行うということです。

● 小型ポータブル機器では消費電流セーブのために水晶振動子が使われる…回路マッチングの必要性/重要性が高まる
振動子はそのようなリスクがあるので発振器を使おうという技術者も多いです。
ただ発振器はICを内蔵しているのでどうしても電流を消費しますが、振動子は受動部品ですから振動子単体が電流を消費するということはありません。
小型のバッテリ電源の機器では消費電流を最少化するために、やはり振動子で発振回路を組むという需要はこれからもなくなることはなく、 水晶の小型化と相まって回路マッチングの必要性/重要性はますます高まってくると思われます。

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